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ラスボーン版 英語

鳩と牢獄

ラスボーン版ラジオ“The Telltale Pigeon Feathers”、終盤のホームズさんの台詞について、そこにある感情は何なんだいという話。


 台詞の意味を理解したくて辞書を引いたので書き残して置こうかと思うんですが、ついでに分かる範囲で物語の流れも。

《The Telltale Pigeon Feathers[1]“telltale“が「密告者」とか「暴露の発端となる人や証拠」という意味らしいので、情緒もクソもなく説明も含めて日本語にするなら「事件発覚のきっかけとなった鳩の羽根」という感じでしょうか。
 ハドスン夫人がマイクロフト・ホームズの元を訪問。夫人の姉妹に下宿の管理人をしている人がいて、彼女が「一階の住人は鳥人間かもしれない」という疑惑を抱いているとのこと[2]ハドスンさんが「彼女はthe seventh daughter of a seventh daughterなんです、意味はおわかりでしょう?」と話しているんですが、7人目の息子もしくは娘はオカルト的な力を持っている、という伝承がある様子? seventh son, daughter – Oxford Reference。その話の裏に事件性を読み取ったマイクロフト・ホームズは、不審な脅迫状を装った手紙をシャーロック・ホームズに出して彼に調査をさせる。
 手紙を受け取ったホームズ&ワトスンは警部とその部下に変装して問題の下宿屋へ行き、捜査の末に伝書鳩と暗号文を発見。
 ホームズは暗号を解いて犯人をおびき出すメッセージを送り、二人はその待ち合わせ場所のミュージックホール[3]ミュージックホール – コトバンクへ。そこに現れたのはモリアーティ教授一味の男だった。二人が近付いて話をしようとしたところで、男は何者かに撃たれて死んでしまう。二人は死体のすぐ近くに居たため、駆け付けた巡査によってスコットランド・ヤードに連行される。
 現場で片手に銃を持って(空砲を撃った?)被害者の目の前に居たワトスンはとても不利な状況に。銃声の直後に遺体を確認していたホームズは、「傷口の近くに火薬による火傷がなかったから至近距離からの発砲ではない、被害者の近くに居たワトスンは無実だ」と訴える。しかしその後検視を行なった医師からは「傷口には火薬による火傷があった」との報告があり、ワトスンは牢屋に入れられることに。
 牢屋でしょんぼりするワトスン、夜が明けるまでには出してやるから心配するなと言うホームズ[4]このシーンの前にワトスンさんだけ「ワトスン先生、残念だがあなたを解放することはできない」って言われているので、ホームズさんは拘束されていないんじゃないかとも思うんですが、だとしたら一緒に残ってあげているホームズさんものすごく可愛くないですか……!
 その後ホームズの推理によって殺人と銃創の偽装を行なった犯人が判明。シラを切る犯人に「だったらそのコートの襟に付いた鳩の羽根は何でしょうね?」とカマを掛けるホームズ、逃げ出した犯人と確保に向かったレストレード警部を見送って、ワトスンがホームズを讃える。
「今回もすごかったなあ。そして君は目が良いよ、私には鳩の羽根なんて見えなかった」
「実を言うと、僕にも見えたわけじゃない。でもあいつの良心はそこに羽根があるかもしれないと思ったんだろう」

 そして上記最後の台詞の続き、物語を締める[5]実際にはこの後、マイクロフト氏の元にお礼を言いに訪れるハドスン夫人のシーンがあります。ホームズさんの台詞が以下。YouTube字幕さん様様です。

Holmes:
 It was a shot in the dark and I had to take it.
 If you would spent a night in… you know, a prison cell, I shall never [6]この部分、neverとhearの間にもう一語ありそうな音声データもあるんですが、とりあえず無い方向で取っています。 hear end of it, I’m sure. Never.

 この台詞、「当て推量だったが、やるしかなかった。もし君が一晩……牢屋なんかで過ごすようなことになったら、大変だからね」という感じの意味だとは思うんですが、その「大変」部分の解釈に迷っていました。

 とりあえずnever hear end of it=それの終わりを耳にすることがないという意味で、「いやというほど聞かされる[7]never hear the end of it – 英辞郎」という訳になるそうなんですが。
(灰色テーブル内は拙訳)

I shall never hear the end of the matter:

そう言われるのが何より辛い

never hear the end of(例文) – Weblio辞書(斎藤和英大辞典)

will never hear the end of it:

If you say you will never hear the end of it, you mean that someone is repeatedly going to speak proudly, disapprovingly, etc. about something

あなたが“I will never hear the end of it”と言うなら、あなたが意味するのは「ある物事について誰かが、自慢げに、あるいは咎めるように、他にも色んな調子で、何度も何度も話すだろう」ということだ

will never hear the end of it – Cambridge Dictionary

 この意味で取ると「君が牢屋で一晩過ごすようなことになったら、僕はその件について何度も聞かされることになるだろうからね」という感じになるんだと思うんですが、どうにも違和感がありまして。
 「聞かされる」のが誰からなのか不明だし、ワトスンさんが「なんで助けてくれなかったんだ!」等と文句を言うというのも考えにくい、探偵の相棒が牢屋にブチ込まれたと世間に騒がれたとしても、それをホームズさんが気にするのはらしくないなァと……
 思っていたら、以下のような訳もありました。

Be continually reminded of (an unpleasant topic or cause of annoyance)

(不愉快な話題や苛立ちの原因)が絶えず頭を過ぎる

never (or not) hear the end of – Phrases < end < Oxford Dictionary

 こちらの意味で行くと件の台詞の“… I’m sure. Never.”まで含めて、「君が牢屋で一晩過ごすようなことになったら、僕はそれを忘れられないに違いないよ。永遠に記憶に残るだろうね」という感じで訳しても良いのかなと思います。
 人に言われるのが嫌だ、世間体的に大変だ、というのではなくて、ホームズさん自身がそのことを考えてしまう、自分のプライド的に大変だというのであればものすごく納得できるので、こちらの意味で解釈したいなァと。
 普段“I never guess(当て推量はしない)”と言っているホームズさん、友人のためには主義を曲げるんですね……[8]なにそれ素敵という思いが8割、それは解釈違いかもしれないという思いが2割くらいです!

 余談ですがこの“The Telltale Pigeon Feathers”、前述した通り警部として変装するホームズさん&ワトスンさんが居て、二人きりのときは普段通り、第三者が居る場所ではコックニー訛りを装うお二人が面白くも可愛いです。下宿屋のドアを開ける前に「話をするのは大体僕に任せてくれないか」「ああ。私のコックニー訛りは君ほど上手くないからなあ」的な相談をしているのも可愛い。

2023/05/13 レイアウト調整

References

References
1 “telltale“が「密告者」とか「暴露の発端となる人や証拠」という意味らしいので、情緒もクソもなく説明も含めて日本語にするなら「事件発覚のきっかけとなった鳩の羽根」という感じでしょうか。
2 ハドスンさんが「彼女はthe seventh daughter of a seventh daughterなんです、意味はおわかりでしょう?」と話しているんですが、7人目の息子もしくは娘はオカルト的な力を持っている、という伝承がある様子? seventh son, daughter – Oxford Reference
3 ミュージックホール – コトバンク
4 このシーンの前にワトスンさんだけ「ワトスン先生、残念だがあなたを解放することはできない」って言われているので、ホームズさんは拘束されていないんじゃないかとも思うんですが、だとしたら一緒に残ってあげているホームズさんものすごく可愛くないですか……!
5 実際にはこの後、マイクロフト氏の元にお礼を言いに訪れるハドスン夫人のシーンがあります。
6 この部分、neverとhearの間にもう一語ありそうな音声データもあるんですが、とりあえず無い方向で取っています。
7 never hear the end of it – 英辞郎
8 なにそれ素敵という思いが8割、それは解釈違いかもしれないという思いが2割くらいです!