空白の数年間を経て再会したときの、シャーロックや正典&グラナダホームズさんの謝罪の話。
Sherlock: I don’t understand. I said I’m sorry, isn’t that what you’re supposed to do?
「SHERLOCK」S3E1、2年間の空白のあとにジョンと再会するも予想していたように喜んではもらえず、最終的に「また一緒に冒険できるのが嬉しいって認めろよ(意訳[1]改めて観返してみたら割と意訳でもなくそのまま言っていました……)」と宣って鼻面に頭突きを貰ったシャーロックがこの台詞を零すんですが。
「謝ったのにこれか?」と不満そうないしは不思議そうな彼、レストランで正体を明かしてからこのシーンまで、“sorry”とは一言も言ってないんですよね。
Sherlock: I’m suddenly realising I probably owe you some sort of an apology.
「謝らなくちゃいけない(謝る義務を負っている)みたいだな」とは言っているけども、それは謝罪ではないのでは、謝罪の必要性の自覚を明言しただけなのでは、と思っていました。
まァこの言い方がとてもシャーロックらしいし、「今理解し始めた[2]余談:“realising”はイギリス英語の綴りだそうで、字幕にもそこは反映されているんだなァと感心しました。考えてみればイギリスで字幕を付けているんだろうから当たり前なんでしょうけども……!」と口にするということは今まで分かっていなかったと認めることでもあるので、彼の中ではかなり真摯な対応なのではと思うんですが、謝罪される側からすれば逆効果ですよね……(笑)。
suddenly(突然に)と馬鹿正直に添えてしまわずとも良いだろうに、というところも含め、シャーロックは謝るのも下手くそだなァ可愛いな、というのが以前からの印象でした。
ところがグラナダ版「空き家の怪事件」を観ていて、こっちのホームズさんもI owe youで謝っているのではということに気付きまして。
グラナダ版の字幕と、ついでに確認した正典原文も台詞は以下のようになっていました[3]グラナダ版は正典の台詞をそのまま使っていることが多いそうで、そういうところも原作に忠実で素敵だなァと思います。。
Holmes: I owe you many apologies, my dear Watson, … .
正典原文でもsorryとは言っていないし、シャーロックの謝り方は正典譲りだったようです。
でもsome sort ofとmanyだったら重みに欠けるのは断然前者だろうし、シャーロックは“I’m suddenly realising”に“probably[4]可能性が大きく非常にありそうな「おそらく、十中八九」(参考)。”まで添えてしまっているので、やっぱり怒られ度は高いよなァと……。
ちなみにこの“I owe you an apology”、英語話者からすると言葉通りの「私はあなたに謝罪をしなければならない」という遠回しな言い方なのか、それとも「申し訳無い」という深い謝罪の意味になるのかが分からなかったのでざっくり調べてみたんですが、よく分かりませんでした![5]参考:Is saying “I owe you an apology” the same as saying “I’m sorry”?
少なくとも現代では、丁寧な言い方ではあるけども「謝らなくちゃいけないね」のあとには「ごめんなさい(sorry)」も必要、という考えの人が多そう……?
「5ドル借りがある」と発言することと5ドル渡すことは違うでしょう、という意見もあれば、最終的には文脈だよという意見もあるようで、確かにジェレミーホームズさんとベネディクトシャーロックの言い方は全然違うよなァと……グラナダ版のホームズさんはちゃんと謝ってるように思われます。ちゃんと謝れていないシャーロックも可愛いんですが!
そして可愛いという以外にもBBC現代版シャーロックの弁護をしておくと、そもそも彼は「お誕生日おめでとう」も“Happy birthday”ではなく“Many happy returns”で伝える人なんですよね[6]Sherlock Mini-Episode: Many Happy Returns(邦題:幸せな人生を)。後者の言い方、ちょっとフォーマルな印象もあるフレーズだそうなので[7]参考:Wikipedia(2017/10/22 0:00)、シャーロックは人との関わりの上でカジュアルな言葉を使うのに慣れていなくて、“ I (probably) owe you (some sort of) an apology”というフレーズも彼の中ではとても丁寧なものとして口にしたのかもしれない、……という可能性もある……のではないかなと思います!
しかし“Many happy returns”が本当にフォーマルなのかそれとも割と一般的なのかは分かりかねていまして、ネットで検索を掛けてみる分には「ちょっと古臭い言い方」「メッセージカードでしか見掛けない」「イギリスでは使う」「アメリカでも使っている」という感じなので、これまた自分の中で結論の出ていない部分です[8] 参考:Word Reference(1), Word Reference(2)
Collins English Dictionary掲載の語義、“a conventional greeting to someone on his or her birthday”も、「誕生日祝いの決まり文句」と訳して良いのか、「伝統的」というようなフォーマル寄りのニュアンスが含まれるのか……?。
ついでに正典ホームズさん、別の箇所でもワトスンさんに謝っていまして、むしろその箇所の方が上記の謝罪よりも前なんですが。
“My dear Watson,” said the well-remembered voice, “I owe you a thousand apologies. […]”
劇的な再会を演出したせいでワトスンさんが気絶してしまって、意識を取り戻した彼に謝罪する部分。この“I owe you a thousand apologies”、とても丁寧な謝罪の仕方だそうで、なんなら“many aplogies”よりも謝罪の度合いは深いのではないかと思われます。
……3年間友人を騙していて悲しませて、その非道を詫びるよりも先に「自分の演出で驚かせたこと」を謝罪するホームズさん……まァ気絶するほどの衝撃を与えてしまったので謝るのは正しいんですが、そこじゃなくない!? という気もします。正典も何だかちょっとズレている。
ちなみにここ、ホームズさんが“I have given you a serious shock by my unnecessarily dramatic reappearance.”と言っていて、芝居好きな自分が再会を劇的な演出にしたことを“unnecessarily(無用な)”と表現しているのがとても珍しいなァと思います。きちんと確認してはいないんですが、たぶん、ホームズさんが自分の好みによる演出を「不必要な」と称したことは他にないんじゃないんでしょうか。ワトスンさんが気絶したのを見て焦ったんでしょうね、やっちまったと思ったんだろうなァというのが感じられてとても好きです。
謝罪の仕方だけを取ると、申し訳無さは「自分の演出で驚かせたこと>3年間死亡を偽装していたこと」のように思える正典ホームズさんですが、一応前者は不必要なこと、後者は必要だったことという理解もできるかなと思います。不必要なことでひどく驚かせてしまったので丁重に謝罪した、モリアーティ教授の組織した悪を葬るのは必要なことだったので、申し訳無いけれど3年間連絡をせずに黙っていた。そういう、友人のことを思いやる方向が他の人とはちょっと違う、独特の感性を持ったホームズさんもホームズさんで良いと思います。
が、それとは別に、グラナダ版のアレンジも上手いなーと思わされました。
Holmes: A thousand apologies, Watson.
I owe youの部分が無くなった分たぶんちょっとカジュアルで、申し訳無いと深い謝罪のニュアンスを残しつつも比重を「自分の演出で驚かせたこと<3年間死亡を偽装していたこと」に持って行っている……! と、ここの違いに気付いた時感動しました[9]そこまで深い意味は無いのかもしれないんですが、そういう受け取り方も出来るとは思う、ので!。
グラナダホームズさんは、「空家の怪事件」のライヘンバッハの滝でのシーンの影響もあって、真っ当に人情のあるひとだなァという印象です。
あともう一つ、BBC現代版シャーロックの謝罪について。
再会直後にはきちんと謝れていない彼ですが、諸々あってジョンの命を助けた翌日、221Bで再会したときには、“sorry”と口にしています。
Sherlock: Sorry, sorry again! ……Sorry.
ちゃんと謝っている……!
丁寧な言い回しをした(のかもしれない)謝罪よりも、このときの他に為す術無い謝り方、ごめん、悪かった、許してよって響きの“sorry”の方にシャーロックのジョンに対する気持ちを感じるので、やっぱり文脈が大事なんだなァと思います。
正典ホームズさんとグラナダホームズさんはベースが同じであっても何処か違って、シャーロックも同じものを受け継いではいるけどやっぱり違って、それぞれに魅力的だな好きだなァ、という話。
2022/04/12 レイアウトと細部の修正
References
↑1 | 改めて観返してみたら割と意訳でもなくそのまま言っていました…… |
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↑2 | 余談:“realising”はイギリス英語の綴りだそうで、字幕にもそこは反映されているんだなァと感心しました。考えてみればイギリスで字幕を付けているんだろうから当たり前なんでしょうけども……! |
↑3 | グラナダ版は正典の台詞をそのまま使っていることが多いそうで、そういうところも原作に忠実で素敵だなァと思います。 |
↑4 | 可能性が大きく非常にありそうな「おそらく、十中八九」(参考)。 |
↑5 | 参考:Is saying “I owe you an apology” the same as saying “I’m sorry”? |
↑6 | Sherlock Mini-Episode: Many Happy Returns(邦題:幸せな人生を) |
↑7 | 参考:Wikipedia(2017/10/22 0:00) |
↑8 | 参考:Word Reference(1), Word Reference(2) Collins English Dictionary掲載の語義、“a conventional greeting to someone on his or her birthday”も、「誕生日祝いの決まり文句」と訳して良いのか、「伝統的」というようなフォーマル寄りのニュアンスが含まれるのか……? |
↑9 | そこまで深い意味は無いのかもしれないんですが、そういう受け取り方も出来るとは思う、ので! |